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文月戦備忘録

更新日:2022年7月23日

文月戦での上村プロによる対藤井聡太戦の大盤解説、ならびに角落ち公開対局を振り返ってみたいと思います。

対藤井聡太戦は銀河戦と王位リーグの2局ありました。それぞれの聞き手を浅田さんと川床さんが担当することになっていましたが、私もサポートできるように準備はしていました。

棋譜の要所を把握する中で感じたことは持ち時間の短い銀河戦の棋譜と長い王位リーグの棋譜では水面下に潜む変化が全く違うということでした。それぞれの対局を20回程は並べましたが、後者の対局ではお互いに取れる駒をすぐに取らないなど、指手順には理解困難な箇所が複数ありました。おそらく対局者自身も全て理解できないまま進んでいったのではないかと思います。棋譜と向き合ってみて将棋そのものが内包している変化手順の広さを肌で感じることができたように思いました。

銀河戦は1日に2局指すため、当日まで藤井四段と当たることが確定していたわけではなかったことや王位リーグでの終盤の誤算など対局者の口から説明されて初めて実感できるようなシチュエーションがあって楽しませてもらいました。

【本イベントの目玉企画であった上弦の部優勝者との角落ち公開対局】

今回は事前申し込み制であったため、運営側は参加者を最初から把握していました。

午前と午後の部にそれぞれ元高校全国大会優勝者や金沢大学将棋部の強豪らが名を連ねていたため、彼らが順当に勝ち上がってきた場合は上村プロといえども相当苦戦を強いられて、正直なところ勝負にならないのではないかとさえ心配していました。

【第1局】

1局目は元高校竜王の荒木優太郎さんが挑戦者となりました。彼は前日にアマ名人戦富山県大会で優勝(2連覇)したばかりで、いくつかのアマ全国大会でもこれまでコンスタントに本戦進出している実力者です。私も今回は彼に敗れて県代表を逃しました。

公開対局が始まるとお互いに隙の無い序盤で進みましたが、中盤以降は普段の荒木さんの指し手とは違うことに私は気づきました。一向に攻める気配がない。殆んど駒がぶつからないまま双方10分を使い切って30秒の秒読みに入りました。

上村プロの不穏なポーカーフェイスに加えて角落ちで負けるわけにはいかないというプレッシャーが下手側に作用していたように思います。途中でチャンスはあったように見えましたが、全体的に手が伸びずに大駒を抑え込まれ、最後は形勢に差をつけられて残念ながら下手の負けとなりました。

打ち上げの席だったか宿だったか忘れましたが、後から上村プロに聞いた話では下手の実力や棋風など相手の情報が全くない状態での対局は上手も結構緊張していたそうです。

ただ、プレッシャーのかかり方としては「角落ちは下手側に不利、平手はプロ側に不利」という結論になり、間をとって香落ちがフェアではないかという話を冗談交じりにされていました。


◎1局目のハイライト

イベント終了後の検討会で上村プロが勝負手と話していた手が△2三金。



ここで▲4五歩△同歩▲5五銀と指されていたら困っていたそうです。

(銀交換の後には▲7二銀の傷が残っている。)

上村プロ曰く下手が上述の攻めをやってこないことに懸けたそうです。

本譜は下手が攻めに出なかったため、続く△3三桂が好形となり、以降下手の駒を抑え込むことに成功しました。

少し進んで図の△4四銀の局面。



ここで下手は▲2三銀と踏み込んでいればまだ難しかったかもしれませんが、▲3八飛と撤退してしまったので△3五歩と収められ、以降はチャンスが来ない将棋となってしまいました。

【第2局】

当日のプログラムにおいて最後のイベントとなった2局目は金沢大学将棋部主将の武田悠立さんが挑戦者になりました。将棋の猛者が集まる富山県内有数の進学校出身で大学将棋でも活躍するという定番のパターン。

聡明な顔立ちと落ち着いた空気をまとった彼は見た目にも隙が無いという表現が似合いました。

公開対局が始まると下手はゴキゲン中飛車の出だしからオーソドックスな美濃囲いに構えます。

角の働きが比較的自由だったのは午前の公開対局を観戦して考えた対策だったのかは定かではありませんが、角落ちの利を損なわないまま中盤へ差し掛かります。

午前同様に下手が上手のカウンターを警戒した動きの中で上村プロは細かくポイントを稼ぎ、上手だけ2枚の歩を持駒にすることに成功しました。

下手は待っていても状況が好転しないと判断したようで向い飛車の形から8筋で動こうとしましたが、下手の隙を見逃さなかった上手にカウンターを食らってしまい下手は形勢を少し損ねました。

◎2局目のハイライト

下手わずかに有利のまま終盤に入りましたが、上村プロの正確な受けが随所で光る展開となり、図の△4一金で下手の銀を取り払った局面では解説の渡部さんと私ともども内心”終わったな”と感じていました。


ワンサイドゲームになると局面の理解は容易でも会話が続かず解説が難しいということもあるものです。

しかし、下手はここから粘りました。

少し進んで図の局面。



6筋に並んだ二枚の金は下手玉から遠く、率の悪い投資で長引かせているだけのように見えましたが、意外と難しく上手になかなか決め手を与えませんでした。

更に進んで図の▲2一銀。



この手が厳しい攻めで上村プロも軽視していたようです。

いつの間にか下手は攻めが切れさえしなければ勝てる展開となり、そのまま武田さんが押し切りました。

打ち上げ後の宿にて上村プロ、渡部さん、私の3人で2局目の棋譜を精査しました。どこで上手が逆転を許したのか、すぐには判断できなかったことからかなりの熱戦であったことを再認識しました。

角落ち戦は形勢判断が難しく、初期配置から見たときの優劣と局面自体の優劣を正確に判断するのはなかなか大変ですが、それが駒落ち戦の醍醐味でもありますね。

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